Ren Design Studio

COLUMN

動き 流れ ムーヴメント

絵画や平面グラフィック、彫刻など動いていない作品にも「動き」「ムーヴメント」という言葉を使うことがある。
初めて聞いたのは、美術大学を目指して通っていた美術予備校で。
最初はデッサンに対して「ムーヴメントがないね」と言われても「???」だった。
完全に止まっている石膏像のデッサンに「動き」って?
美術予備校でデッサンの勉強用に使用している石膏像は、その多くがギリシャ・ローマ時代やルネッサンス期の名作の模刻。
そのモデルは人間(神様だったとしても形自体は人間)。ほとんどの石膏像が直立不動ではなく、何らかの動きをしている途中(動作が大きいか小さいかの違いはあっても)の一瞬を切り取ったもの。
当時の私が至った「静止している平面や立体作品に「動き」を出すとは?」への答えは、その先の動きが想像できるように表現すること。
石膏像のポーズを自分で真似してみたりしながら、石膏像のモデルがどういう動きをしようとしているか、彼or彼女がそのような動きをするに至った感情や状況を理解し想像し、その動きをその先の動きへ向けて少しだけ強調する。
すると絵に「動き」が出てくる。(と私は感じた)
私たちは、自分の今までの経験をもとにして描かれている対象の次の動きを想像し、結果静止している作品に「動き」を感じるのではないか。
ムーヴメントが作品に出てくると作品自体が生き生きしてくる。
そして描くこと自体も、ただ漠然と石膏像を写し取るよりも断然楽しい。

「動き」は生命。
私たちは「動き」を感じた時に生命そのものを感じ、美しいと感じるのでは、と思う。植物だって止まっているように見えても時間のスパンを変えれば動き続けているのがわかる。

「ネバー ストップ ムーヴィング」
ルイジさん(10代の頃習っていたジャズダンスの先生の先生。ニューヨークで活躍したジャズダンスの神様と言われた方)のモットー。
10代で初めて聞いた時から今まで常に新しい発見がある言葉。
踊ることだけではなく、生き方そのものにも当てはまる言葉。

写真1の角度でデッサンする場合、写真1の写真のように描くと写真2の角度から見たときの首の動きや視線がわかりにくい。
写真1ではただ横を向いているだけのように見えるが、実際に絵に描くときは写真2の角度や他の角度からも観察し、写真2で観察できるの首の動き(一旦胸の前方に突き出してから斜め上の彼方を見るようにひねっている)を写真1の方向から見た時にもわかるように、首の角度・首の筋肉の描き方・肩の角度などに、より注意を払い、動きを感じるように表現していた。

2020年4月11日
文 : 佐武 絵里子

写真1 Apollo Belvedere 撮影:Ren Design Studio 2010年 バチカン美術館にて

写真2 Apollo Belvedere 撮影:Ren Design Studio 2010年 バチカン美術館にて